■経済史に学ぶ(戦前2)■
万年青投機物語(前編) |
万年青(オモト)は、ユリ科の常緑多年草です。
春、小さな花が咲きますが、葉の方が光沢があり見栄えがします。
つまり、観葉植物です。
秋になると、橙色の実がなります。
約100年前、この地味な植物を巡って、欲望のドラマが繰り広げられたことは、あまり知られていません。
万年青の品種は、1000にものぼり、葉に斑が入ったもの、形に特徴のあるものは珍重され、人気がでたことがあります。 江戸の天保年間、万年青が流行して、品種改良が進みます。
明治時代、華族などの上流階級で、貴重な万年青は高価格で取引されるようになります。
交配は花の咲く春。
株分けは、秋から春にかけて行います。
株分けは、1〜2年に一度、6分割ぐらいが適当です。
あまり小分けにすると、勢いを失い枯れてしまいます。
万年青の名鑑などが出て、新しい品種に需要が殺到することがあります。
どんなに価格が上がっても、1年間は供給が増えることは、期待できません。
つまり、値段は毎日上がる一方なのです。
万年青を買って、値上がりを待って、転売する。
園芸には、まったく興味がない場違い筋も甘い蜜に吸い寄せられます。
上がるから買う、買うから上がるの黄金の螺旋階段の出現です。
株の楽しみのない時代、万年青が投機の対象になったのは、自然なことなのです。
明治5年、13年、31年、40年・・4回に渡り、万年青投機が熱病のように流行します。
8〜18年の周期ですね。
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万年青バブルは、分割株投資と似ています。
株式分割で1株は10株に増加します。新しく増加した9株は通常2ヵ月後でないと株主の手元には届かず、売ることができません。 供給は、たったの1株なのに、価格は1/10。
安いという錯覚があるのに供給が絞られ、バブル相場が発生します。
しかし、この暴騰は、続くでしょうか?・・・・・・・・・
しだいに、春が近づきます。
◆◆万年青投機は、一年限りのババ抜きゲームなのです。◆◆
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明日は、休みます。◆◆
万年青投機物語(後編) |
万年青投機を支えてものに、万年青名鑑があります。 これは、万年青の品種ごとに相撲にまねて、横綱や大関などの番付を決めたものです。
江戸末期、濃紺の縁取り、虎斑入りの万年青の名品が誕生します。
その姿は、松の木に似ていました。
この万年青は、根岸松と命名されます。
現在、千代田班系統といわれる万年青は、全てこの株から生み出されます。
明治5年、13年に横綱となったのは、根岸松の新種と推定できます。
そのうちに、株分けや種から新規の供給が増えるのではないか?
賢い投機家は、先を冷静に読み、万年青を売り逃げます。
儲けた人もいるようです。
小説の例をあげましょう。
尾崎紅葉の名作、金色夜叉は、万年青投機が盛んだった明治30年に書かれました。
貫一は、恋人お宮に裏切られます。
お宮は、ダイヤモンドの輝きに魅せられ、大金持ちと婚約したのです。
「来年の今月今夜の此の月は、僕の涙で曇らして見せるよ」
貫一は、復讐を誓い、高利貸し鰐淵の手代になります。
この鰐淵は、万年青投機と米相場で元手を作ったという設定です。
鰐淵は、恨みをかい、家を放火され、殺されます。
さて、話を万年青に戻します。
大部分の投機家は、逃げ遅れます。
バブル相場において、下り坂は、上り坂より急なのです。
ある日突然・・・・
価格は、断崖絶壁を落下します。
むしろ、いくら安くなっても、誰も買わないといったほうがよいでしょう。
万年青は、ただの観葉植物に戻ります。
◆◆借金して万年青を購入した投機家は、破産します。◆◆
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明治13年〜14年、東京、大阪、京都まで、悲劇は広がったそうです。◆◆
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