磁石・金属微粒子事業部


希土類について


 希土類元素とは、周期律表のLa(ランタン)からLu(ルテチウム)に至る15種類のランタン系列にY(イットリウム)とSc(スカンジウム)を加えた17種類の元素の総称です。名前からは、これらの元素は希(まれ)であるように思われがちですが、たとえば、軽希土類元素(La、Ce(セリウム)、Nd(ネオジウム)、Pr(プラセオジム))は資源的に豊富であり、CeはCo(コバルト)やSn(スズ)よりも地殻に多く存在するほどです。しかし、これらの元素は化学的性質が似通っていて、互いの元素を分離することが非常に困難でした。そのために、互いの分離プロセスが複雑となり純度の高い希土類元素は高価であるという問題がありました。しかし、近年ではより高度な分離プロセスが開発され、より安価に希土類元素を入手することが出来るようになりました。


 また、その電子構造が非常に特異な性質であることにより、それぞれの元素によって多様な結晶構造を有したり、特殊な発光特性、磁気特性、電気的特性などが発現することが知られており、すでにランプ用蛍光体、水素吸蔵合金、触媒、MRI用造影剤そして磁石などに広く実用化されています。


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希土類磁石について


 永久磁石はコンピューター、家電製品、自動車などに幅広く利用されています。それは、永久磁石は電磁石と異なり、外部から電気的なエネルギーを加えなくてもその名の通り磁界を永久的に供給できるからです。永久磁石は磁性原料を焼結することで得られる焼結磁石と、磁性原料とプラスチックを複合化させたボンド磁石に分けることが出来ます。焼結磁石はプラスチックのような不純物をほとんど含まないために強い磁石となりますが、機械加工性などに劣ります。これに対し、ボンド磁石はプラスチックと複合化されているため加工性に優れているものの、その分磁性原料が希釈されているために磁石の強さは焼結磁石に劣ります。


 永久磁石はその原料によって更に、フェライトやアルニコといった希土類を含まない磁石と、SmCo5、Sm2Co17、Nd2Fe14Bといった希土類磁石に分けることが出来ます。希土類磁石は1960年代後半から開発され始めましたが、フェライトやアルニコに比べて強力であることから、近年急速にその重要性が高まっています。


 このような永久磁石の強さを表す代表的な指標として最大磁気エネルギー積(BHmax)が挙げられます。この値が大きければ大きいほど、強力な磁石であるといえます。また、この最大エネルギー積を高くするためには、自発磁化と保磁力という二つの特性をバランスよく向上させる必要があります。自発磁化が高い磁石は大きな外部磁場を発生することが出来ます。また、保磁力が高い磁石は外部からの磁気的あるいは熱的エネルギーに対して抵抗力が高いことを意味します。鉄やコバルトあるいはそれらの合金などの自発磁化は極めて高いのですが、保磁力が低いために外部からの磁場などの影響を受けやすい欠点があります。これに対して、希土類磁石は自発磁化をある程度犠牲にしながらも、高い保磁力をバランスよく保持しているために安定して高い外部磁場を発生することが出来ます。


 このように、希土類磁石は高い外部磁場を安定して発生出来るために、強力な磁場を必要とする用途(たとえば、電気自動車用などの大型のモーター、発電機やMRIなどの医療器具)や非常に微細な磁石を必要とする用途(ハードディスク用などの小型モーター、スピーカー)などに幅広く利用されており、より一層の高特性化が求められています。


ナノコンポジット磁石について


 前項でも記述いたしましたように、強力な磁石を作るためには、自発磁化と保磁力の双方を高める必要があります。希土類磁石はその双方がバランスの取れた磁石であるといえます。なかでも、最も代表的な希土類磁石は1982年に佐川博士らによって発見されたNd2Fe14B(ネオジウム2-鉄14-ホウ素1)という磁石です。この磁石は1.6 Tという高い自発磁化と、結晶構造に起因した高い保磁力を併せ持っており、その理論的な最大磁気エネルギー積(BHmax)は約64 MGOe程度であると言われています。従来の強力磁石である、アルニコ磁石のそれが約12 MGOe程度であることからみても、その強力さが伺えます。発見当初はこの材料の特性を最大限に引き出すことができなかったのですが、磁石作成プロセスの最適化によって現在ではその潜在能力の9割程度まで引き出すことに成功しています。

 近年、ナノテクノロジーという新しい材料設計テクノロジーが開発され、種々の新素材が研究されています。永久磁石の分野においても、発見から既に20年が経とうとしているNd2Fe14Bを越えた次世代型の強力永久磁石作成の試みがなされています。その最も有望な課題として、自発磁化の大きな磁石と保磁力の大きな磁石をナノレベルで複合化した、いわゆるナノコンポジット磁石の作製が試みられています。計算上では自発磁化の高い鉄と保磁力の高いNd2Fe14B磁石をナノレベルで複合化させることによって、その最大磁気エネルギー積(BHmax)を100 MGOe程度まで向上させることができると言われています。しかし、現在の材料作成技術においては、ナノコンポジット磁石の能力を最大限引き出すことは難しく、例えば超高真空中で作製された薄膜材料においてすら、Nd2Fe14B磁石単相の理論的な特性(約64 MGOe)を越える材料は得られていません。


弊社の提案する新しいナノコンポジット磁石について


 弊社においてはこのナノコンポジット磁石の概念を拡張し、強磁性マトリックス中に主としてネオジウムの酸化物からなる第二相をナノレベルで複合化するという新しいタイプのナノコンポジット磁石を提案し、そのための新しい材料作成プロセス(ナノプロセス)を確立いたしました。

 酸化亜鉛などの一部の金属酸化物は大気中での熱処理によって、金属と酸素に分解することが知られております。特に酸化亜鉛においては、亜鉛の蒸気圧が高いことに起因し、約800℃以上の温度域において亜鉛と酸素の双方が気体として分解するという特徴を有しています。弊社研究グループにおいてはこの特異な物性に着目し、ナノレベルの酸化亜鉛(又は亜鉛)微粉末をNd2Fe14Bをベースとする希土類系の磁性粉と混合し、酸化亜鉛の分解温度以上で真空中において熱処理を行うことにより、in situ(その場)で局所的にナノレベルの希土類酸化物を析出させることに成功いたしました。この際、亜鉛はその殆どが気体として試料外部に放出されるため、焼結体に残留せず、影響を及ぼすことがありません。この際、酸化亜鉛から放出された酸素はより酸化しやすい希土類(例えばNdなど)に優先的に作用し、主として希土類酸化物を形成します。そこで、必然的にナノレベルの鉄やホウ素等の成分が取り残されます。こうすることで、希土類系の磁石の内部にナノレベルの希土類系酸化物粒子が分散した構造を形成することができます。

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 こうして得られた酸化物の存在形態に関しては、酸化亜鉛の粒径、添加量、焼結条件等の実験条件により任意に制御することが可能です。弊社研究グループにおいては、以下のような微細構造の作製に既に成功しております。


 1. 磁性相内部に酸化物のナノ粒子を析出させた構造。

 2. 磁性相結晶の表面をナノレベルの酸化物の結晶相でコーティングした構造。(下図 type A.)

 3. 個々の磁性相結晶の表面を数ナノメートル程度の極めて薄い酸化物のガラス相(アモルファス相)でコーティングした構造。(下図 type B.)


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 このナノ構造を作成するプロセス(ナノプロセス)の特徴としては、従来の希土類系磁石の製造工程で極端に嫌われてきた酸化物を逆に積極的に利用することにあります。すなわち、酸化亜鉛などの酸化物超微粒子を酸素の運搬剤として利用することで、従来極めて困難であった局所的な酸化反応を実現することが可能になりました。しかも、従来のプロセスと同様の装置で実現出来るため、特殊な装置を必要としないというコスト面での優位性も挙げられます。


 こうして得られた新しいナノコンポジット磁石は、これまでに取り組まれてきたナノコンポジット磁石とは異なるものですが、ナノレベルの酸化物が材料中に均一に分散していることにより、磁壁のピン止め効果による保持力の向上、個々の結晶粒が酸化被膜で覆われていることによる耐酸化性の向上の他、取り残された鉄系を主とする成分が比較的高い自発磁化を有していることにより高い最大磁気エネルギー積が発現することなど、種々の物性の向上が確認されています。

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ナノマイザー法について


 ナノマイザー法は、ナノ材料を作成するための原料となる金属・金属間化合物・セラミックス単相あるいはこれらの複合体の微粒子を作成するための新しい微粒子合成プロセスです。

ナノマイザ−法による微粒子製法は以下の特徴をもっております。

   1. ミクロン単位の球状微粒子が量産可能であること
   2. 高融点金属の微粒子が生産可能であること
   3. 酸化されやすい希土類金属の微粒子が生産可能であること
   4. 粒径が均一で組成が均質な球状微粒子の生産が可能であること

この手法を用いることにより、以下のように非常に球状性のよいミクロレベルの粒子を製造する事ができるようになりました。

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 さらに、弊社研究センターにおいては、すでに酸化亜鉛以外の金属酸化物・窒化物をはじめとする種々のナノレベルの気体運搬剤とも言うべき添加剤について独自に開発しております。その延長として、近年では、原料粉末の作製時にこれらの添加剤を加えることで、ナノ構造を制御した原料粉末の作製に取り組んでおります。特に、この手法とナノマイザーTM法を併用することで、極めて粒度・形状の揃ったミクロンサイズの原料球状粉末の内部をin situでナノレベルの微細構造を制御することに成功しています。

 これらの特性により、磁性体粉末はもとより触媒・誘電体・蓄熱材・潤滑剤・改質剤・固体電解質等々の幅広い分野での活用が見込まれます。




 

御殿場新工場のご案内

弊社磁石・金属微粒子事業部におきましては、9月本格稼動開始を目標に本事業の主力工場を御殿場市(静岡県)に立ち上げております。

本工場を設置するに当たっては、

1. ナノテクノロジーと高速な技術革新への対応
2.安全ならびに環境調和への配慮
3.ITによる低コスト化

の3つを主要プランニングコンセプトとしております。

まず、ナノテクノロジーを産業面に応用するために、それぞれの製造装置は、汎用の最新鋭の装置を弊社においてナノプロセス用に独自にカスタマイズしております。具体的には、金属(あるいは、合金、金属間化合物、セラミックスなど)の微粒子を作製するために弊社で独自に開発したナノマイザー装置をはじめ、磁場中特殊成型機、真空・特殊雰囲気制御炉、各種加工機、および品質管理用の各種解析装置などをナノプロセス用にカスタマイズして製造いたします。また、それぞれの工程毎に有機的に配置されたクラスター構造をとることにより、フレキシビリティ(自由度)が高い特徴を有しており、今後の工場拡張はもとより、技術革新とそれに伴うプロセスの変化に速やかに対応出来る設計となっております。

次に、安全面はもちろんのこと、周辺地域の地学的環境・生物的環境に配慮した環境調和型の工場を志向しております。

最後に、昨今のIT化に対応し、営業部門(在庫管理システムなど)や品質管理部門(装置自動制御システムなど)との連携はもちろんのこと、開発研究部門との連携や、将来的にはお取引先のお客様との連携(B to B)までも視野に入れた新しい情報共有システムを導入し、次世代型の低コスト型工場を志向しております。


御殿場工場(建設中)

 

 

製品のご案内

工場稼動開始時の生産品は、磁石分野ではボンド磁石用ペレット(汎用)ならびに特定の用途にカスタマイズしたボンド磁石です。金属球状微粒子分野では、先ず、ナノ構造を有する金属球状微粒子の予定です。

【磁石分野】
球状磁性体をナイロン・エポキシ樹脂等と混ぜ合わせ、成形・着磁して所定の形状にした磁石をボンド磁石と呼びます。弊社においては、汎用のペレット状ボンド磁石の他に、それぞれの用途に応じてカスタマイズしたボンド磁石成型品を製造いたします。これらの製品は弊社独自の球状磁性体微粒子と樹脂を混ぜ込む混練・成形技術と、多極着磁技術が相まって、NS極を多数持つ精密な電子デバイス用部材として提供いたします。

真球に近い球状磁性体微粒子をボンド磁石に使用する優位点は以下の通りです。
1) 
球状磁性体微粒子が真球に近く、より等方性の高い磁気特性が発現いたします。
2) 
磁石生産時には、磁性微粒子が真球に近い形状で表面摩擦が小さいので、金型に充填する際の流動性が良くなり均質な充填が可能となります。安定した品質確保に、真球に近い磁性体の形状が有利に作用します。
3) 
球状磁性体微粒子の表面及び内部がホモジニアスな(均一性の良い)ナノ構造になっている事に起因し、独自の磁気特性を示します。

【金属球状微粒子分野】 
各種金属を"真球に近いミクロンサイズの微粒子"に加工する技術を生かし、金属球状微粒子を製造いたします。これら球状微粒子は弊社ボンド磁石の原料粉末となるほか、それぞれのお取引企業様に応じて成分、粒度調整を行った後、鉛フリーはんだ用原料・粉末冶金原料・導電材料・トライボロジー材料などの原料として提供いたします。

鉛フリーはんだ用原料は、鉛が環境に与える悪影響を考慮し、鉛の使用を減らしていこうという流れに沿ったものです。当社の提供する鉛フリーはんだ用原料は、独自に開発したナノマイザー装置を用いて製造し、形状はミクロンサイズの真球です。移動体通信機器やノートパソコン等小型軽量化機器の電子回路に最適です。鉛フリーはんだトップクラスの濡れ性、耐熱疲労性、耐酸化性を達成するはんだペーストとして活用されます。同時に、接合信頼性をアップした新組成の鉛フリーはんだ用ボールを開発中です

 

<参考>各項目をクリックすると、各微粒子画像をご覧いただけます。
 
   Ag(銀)・・・5μm 、45μm、微粒子集合画像
   Cu(銅)・・・5μm、45μm、微粒子集合画像
   Ni(ニッケル)・・・5μm、45μ m、微粒子集合画像
   Ni-Al(ニッケルアルミ)・・・45μm、100μm、微粒子集合画像
   Sn-Ag-Cu-Ni-Ge(はんだ)・・・5μm 、45μm 、微粒子集合画像

 


 



 

お問い合わせは

jisyaku@shimurakako.co.jp


または
磁石・金属微粒子事業部  TEL 03-3216-6431